酸素化の指標とは
肺胞でのガス交換によって血液は酸素化される。
酸素化の指標として用いられるものには、2つある。
- 酸素分圧[Torr=mmHg]
- 酸素飽和度[%]
これらを測定するにあたって大事なのが、FiO2(吸入酸素濃度)である。
FiO2は、大気中の空気を吸っている場合(room air)のときは21%だが、人工呼吸器などの酸素投与時ではそれ以上高い数値になる。
濃い酸素を吸っていれば、その分酸素分圧や酸素飽和度も高くなる。
したがって、どのくらいのFiO2で測定した値なのかということが重要となる。

酸素投与では、1~4[L/分]なら鼻カニューレ、5~7[L/分]なら酸素マスク、6[L/分]以上ならリザーバー付きマスクを使うよ。
酸素分圧[Torr=mmHg]
酸素の圧力を測定したものが酸素分圧である。
吸入気中なのか、肺胞中なのか、動脈血中なのかによってそれぞれ酸素分圧は変化する。
- PaO2(動脈血酸素分圧)
- PIO2(吸入気酸素分圧)
- PAO2(肺胞内酸素分圧)
PaO2(動脈血酸素分圧)
動脈血中に溶解している酸素の分圧。採血で測定。
基準値:80〜100[Torr]
PIO2(吸入気酸素分圧)
吸入した酸素の分圧。
通常、大気圧=760mmHg、水蒸気圧=47mmHgであるので、PIO2=(760-47)×FiO2(吸入酸素濃度)で表せる。
room airではFiO2=0.21であるので、PIO2≒150[Torr](room air)となる。
PAO2(肺胞内酸素分圧)
肺胞内の酸素の分圧。
PIO2(吸入気酸素分圧)-PaCO2/0.8で表せる。
PaCO2は採血で測定できる。
すなわちroom airではPIO2≒150[Torr]であるので、PAO2≒150-PaCO2/0.8[Torr](room air)となる。
AaDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差 )
肺胞酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差のこと。正常は 10 [Torr] 以下。
PADO2≒150-PaCO2/0.8なので、AaDO2≒150-PaCO2/0.8ーPaO2[Torr](room air)となる。
AaDO2は呼吸不全によって開大する。 →【呼吸器】呼吸不全の病態
WHY?呼吸不全によってPAO2とPaO2の差は開大するが、PACO2とPaCO2の差は開大しない。二酸化炭素の拡散能が優れている(酸素の約20 倍)ためである。
酸素飽和度[%]
動脈血中のヘモグロビンの酸素飽和度を表したもの。
酸素分圧と同様に、必ずFiO2(吸入酸素濃度)を考慮する。
採血して動脈血ガス分析を行うか、直接パルスオキシメーターという機械で測定するかで名前が変わる。
- SaO2(動脈血酸素飽和度)
- SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)
また、酸素分圧とヘモグロビン酸素飽和度の関係は、ヘモグロビン酸素乖離曲線によって表せる。→【呼吸器】Hb酸素乖離曲線とチアノーゼ
SaO2(動脈血酸素飽和度)
採血した動脈血を機械によって分析して得られたヘモグロビンの酸素飽和度。
ヘモグロビンの酸素飽和度は、酸化ヘモグロビン÷(酸化ヘモグロビン+還元ヘモグロビン)で表せる。
90%未満で呼吸不全となる。これは、PaO2 60[torr]と一致する。
正確である。
SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)
パルスオキシメーターという機械を使って測定する。
簡便で、非侵襲的。持続的なモニタリングが可能。SASの診断のためのポリソムノグラフィーにも含まれる。
パルスオキシメーターの原理は、まず指先などの組織に赤色光と赤外光の2つの波長を当て、脈拍による透過光の変化で動脈成分を識別する。
酸化ヘモグロビンは赤色光をよく透過し、還元ヘモグロビンは赤色光を吸収するため、吸光度の比からヘモグロビン酸素飽和度を求めている。
SpO2とSaO2の解離
本来ならば、SpO2はSaO2と一致する。
両者に解離が起こるのは、
- 物理的な問題=体動、センサーのずれ、マニュキアによる透光性不良など
- 脈拍を感知できない=寒冷による末梢血管収縮、脱水による低血圧など
- 異常ヘモグロビンの出現=メトヘモグロビン血症、一酸化炭素中毒
メトヘモグロビン血症、一酸化炭素中毒でおこること
パルスオキシメータは、原理的に 2 波長の光を使用して測定されており、酸化ヘモグロビン以外はすべて還元ヘモグロビンであるという前提で測定されている。
メトヘモグロビン血症によるメトヘモグロビン(MetHb)という酸素との結合能を有しない異常ヘモグロビンは、検出する波長が類似しているため還元型ヘモグロビンとして測定されてしまう。
したがってSpO2<SaO2となる。(SpO2を過小評価)
また、一酸化炭素中毒によるカルボキシヘモグロビン(COHb)は逆に酸化ヘモグロビンとして測定されてしまう。
したがってPaO2<SpO2となる。(SpO2を過大評価)
一見SpO2が正常でも異常ヘモグロビンは酸素を運搬できないため、低O2血症になっている可能性を考慮しなければならない。
MOREメトヘモグロビンやカルボキシヘモグロビンを含めた総ヘモグロビン全体に対する酸素化ヘモグロビンを表す値として「O2Hb%」がある。異常Hbを考慮しないSaO2と違い、O2Hbは主に潜在的な酸素運搬能力を反映する。
WHY?貧血ではSpO2は低下しない。SpO2は酸化・還元ヘモグロビンの比を飽和度として測定しているため、ヘモグロビンの絶対量が低下する貧血ではSpO2は低下しない。この場合酸素投与を行っても意味がないことに注意する。また、ヘモグロビンが5 g/dl以下では測定誤差が大きくなる。
まとめ
酸素化の指標は、採血での値とFiO2から考えられる。
- PaO2(動脈血酸素分圧)=採血
- PIO2(吸入気酸素分圧)=FiO2
- PAO2(肺胞内酸素分圧)=FiO2と採血
- AaDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差 )=FiO2と採血
特にPAO2=150-PaCO2/0.8は必ず覚えておく。
また、酸素飽和度はSaO2とSpO2の乖離がおこることがある。
- メトヘモグロビン→酸素を持てない→SpO2を過小評価
- カルボキシヘモグロビン→酸素を持てるが離せない→SpO2を過大評価
2つの違いについて確認しておくこと!