はじめに
意外と得点源にしやすい分野
検査(特にスクリーニング)や疫学研究の計算問題は、取っつきにくい公衆衛生分野の中でも、さらに苦手とする医学生が多い印象を受けます。
しかし、輸液など他の計算問題よりも、はるかに切り口が限られている(ワンパターンである)ため、一度習得してしまえば、すぐに得点源に出来ます。
ぜひこの記事を読んで、得意になってもらえると嬉しいです。
絶対に覚えなければならない表
まず、この分野の問題だと思ったら、問題を読む前に”絶対に”4×4の以下の表を書きます。
疾患+ | 疾患- | 合計 | |
因子+ | a | b | a+b |
因子- | c | d | c+d |
合計 | a+c | b+d | a+b+c+d |
左を「因子」としてあるのは、スクリーニングと疫学研究、どちらの計算問題でも使えるようにです。(要は根本は同じ計算だということ)
「因子」は、スクリーニングでは「検査結果」、疫学研究では「暴露(わるいこと)」や「介入(よいこと)」に置き換えられます。
また「疾患」は、疫学研究では「罹患(新規発生数)」とします。
この表と各計算式を知っていれば、スクリーニングと疫学研究の計算問題は全部解けます。
この記事では、スクリーニングの計算問題を解説します。
スクリーニング
感度と特異度
まずは感度と特異度について説明しておきます。
そもそも検査を行う目的は、以下の2つを判断することです。
- 疾患がありそうな人を陽性と判断する=感度=a/(a+c)
- 疾患がなさそうな人を陰性と判断する=特異度=d/(b+d)
したがって、感度と特異度の両方が高い検査が理想とされます。
しかし、両者はトレードオフの関係にあり、片方が高いと片方が低くなるという特性を持ちます。
出来るだけ両者が高い状態にするためには、ROC曲線を用いて、最も良い陽性と陰性の線引き(カットオフ値)を決める必要があります。
偽陽性と偽陰性
偽陽性と偽陰性についても説明しておきます。
1-感度=偽陽性=c/(a+c)、1-特異度=偽陰性=b/(b+d)であり、それぞれ感度と特異度のウラの値だと考えると分かりやすいです。
感度が高ければ、偽陽性が低くなるので除外診断に有効であり、特異度が高ければ、偽陰性が低くなるので確定診断に有効となります。
ROC曲線
※108C8
ROC曲線は、y軸に「感度」、x軸に「1-特異度」を設定した際に、その検査が辿る値の曲線のことです。
※得られる値によっては必ずしも曲線にならず直線のこともあります。

「どうしてx軸が特異度じゃないのか」という疑問には、「その方が表としての都合が良いから」と答えるに尽きるよ。そこは割り切ってね…。
前述したように、ROC曲線を用いることで、その検査の最も良い陽性と陰性の線引き(カットオフ値)を決めることが出来ます。
また後述しますが、ROC曲線からAUCを求めることで検査自体の有用性を比較することも出来ます。
カットオフ値
ここで、ROC曲線からカットオフ値を決める考え方を説明しておきます。
感度、特異度ともに最大値が1なので、理想のカットオフ値は、感度が1のときに特異度も1になる点(★点)です。
このとき上記の表では、a=d=1、c=b=0となり、偽陽性や偽陰性が0になる完全な検査といえます。
しかしあくまで理想値であり、現実的な検査はその値になりません。
したがって、ある検査のROC曲線(赤線)を例に出すと、実際は直線距離で★点に最も近い点(■点)をカットオフ値として決めます。
AUC(曲線下面積)
また、グラフ中でROC曲線よりも下の部分の面積を、AUC(曲線下面積)といいます。
例えば、先ほどの★点を通るような理想のROC曲線(紫線)ではAUCは1となります。
また、逆に感度と特異度が全く同じROC曲線(青線)ではAUCは0.5となります。
このとき上記の表では、a=c=0.5、b=d=0.5となるため、検査と疾患の関連性が全くない(検査を受ける意味がない)ことを示します。
したがってAUCは、0.5以上かつ1に近ければ近いほど、その疾患にとって有用な検査であるといえます。
例えば以下のグラフでは、aが最もAUCが大きいため、最も有用な検査であるといえます。(逆にeは論外)
※105F11
陽性尤度比
感度や特異度のことを尤度(ゆうど)といい、それらの比のことを尤度比といいます。

犬じゃなくて、尤だよ。ワンワン。
陽性尤度比=感度/(1-特異度)は、その疾患の人が、疾患でない人と比べて、どれだけ検査で陽性と出やすいかということです。
しかし簡単に言ってしまえば、感度/1-特異度という値は、要はROC曲線のカットオフ値での傾きのことなのです。
陽性尤度比は、特異度が1であるとき分母が0になるため∞になります。
したがって陽性尤度比が大きい検査は、確定診断(特異度が高い)に向いている検査だといえます。
※逆に陰性尤度比=(1-感度)/特異度は除外診断に向いています
尤度比はオッズ(後述)との関係性があり、検査の的中度を予想する指標にもなります。
ここまでのまとめ①
オッズの話をする前に、段々こんがらがってきた方もいると思うので、一度問題を解いて頭を整理してみてください。
【問題】この検査の感度・特異度・陽性的中度を求めよ。※108H15(改題)
疾患+ | 疾患- | 合計 | |
因子+ | 80 | 20 | 100 |
因子- | 10 | 90 | 100 |
合計 | 90 | 110 | 200 |
ここからは、検査前・検査後確率とオッズの説明をしていきます。
検査前確率と検査後確立
検査と無関係に患者に疾患があるかどうかの確率を検査前確率(要は有病率)といいます。
検査前確率は、(a+c)/(a+b+c+d)で表せます。
また検査を受けた後に患者が事前に疾患があったかどうかの確率を検査後確率といいます。
陽性の場合は陽性的中度(a/a+b)という値を用います。
疾患が「あった」かどうかという値なので、陰性の場合は1-陰性的中度(c/c+d)を用います。

「なかった」かどうかであれば、陰性の時は陰性的中度と同じになるよ。
しかし、検査後確立は、疾患があったかどうかが事前に分かっていないと求めることが出来ません。
そこで、オッズという考えを使います。
オッズ
オッズは、ある事象(P)が起こる確率と、起こらない確率の、比です。P/(1-P)で表します。
検査前に病気がある確率をない確率で割ったものを検査前オッズ、検査後に病気がある確率をない確率で割ったものを検査後オッズといいます。
検査前オッズは、検査前に病気がある確率(検査前確率)を、ない確率(1-検査前確率)で割ったものなのになります。
また検査後オッズは、検査後に病気がある確率(検査後確立)を、ない確率(1-検査後確立)で割ったものになります。
前述のように検査後確立は陽性の時と陰性の時で異なるため、検査後オッズは、陽性の時には陽性的中度/(1-陽性的中度)、陰性の時には(1-陰性的中度)/陰性的中度になります。
そして検査前オッズと検査後オッズには、以下の関係があることが分かっています。
- 検査前オッズ×陽性尤度比=(検査陽性の時の)検査後オッズ
- 検査前オッズ×陰性尤度比=(検査陰性の時の)検査後オッズ
すなわち、有病率と陽性尤度比が分かっていれば、陽性的中度が計算出来るのです。
※もちろん陰性尤度比を使えば陰性的中度も分かります
上記の表のabcdを用いれば、実際に計算で証明出来ます。
この式の関係性を表したものがノモグラムというグラフです。
既知のS(検査前オッズ)とT(尤度比)の値に直線を引くと、未知のR(検査後オッズ)の値が得られるわけです。
※Wikipediaより
ここまでのまとめ②
最後に問題を解いて頭を整理しましょう。
【問題】検査前確率と検査陽性時の検査後確立を求めよ。またオッズを用いて検査後オッズ/検査前オッズが尤度比になることを証明せよ。※108H15(改題)
疾患+ | 疾患- | 合計 | |
因子+ | 80 | 20 | 100 |
因子- | 10 | 90 | 100 |
合計 | 90 | 110 | 200 |
検査後オッズ=0.8/(1-0.8)=4
検査後オッズ/検査前オッズ=4/0.818≒4.89=陽性尤度比(前回の問題より)
まとめ
いかがだったでしょうか。
ROC曲線からその検査の感度と特異度を決めることで尤度比が決まり、さらにオッズを用いることで尤度比から検査の的中度が分かるといったあらすじでした。
この記事が理解出来たなら、国試問題は超簡単です!お疲れさまでした。